ゆるさの「ゆ」、風邪を引く。

その日は至って普通の水曜日でした。
いつものように丸ノ内線に揺られ、
ジョアン・ドナートを聴きながら、
優雅な気持ちで会社に出勤。
確かに喉の奥に引っかかるものを感じていたものの、
大して気にはしていなかったのです。

ところが会社に到着し、席に着いた瞬間、
喉の痛みが急激に悪化し、悪寒、止まらぬ鼻水、
挙句の果てには関節という関節が痛む始末。
これはマズイ。仕方なく昼過ぎには仕事を切り上げることにしました。

のど飴を頬張り、のどぬーるスプレーを喉に塗りたくり、
42度に熱した風呂に10分間浸かり、
葛根湯と栄養ドリンク(奮発して350円くらいするやつ)を一気に飲み干し、
満を持して熱を測ったところ、
なんと体温計は38度5分という記録的な数字を示しました。
これはもう運命を受け入れる他ありません。私は病気です!

しかし元来病院が苦手な上、熱でフラフラで動けない私は、
色々と諦めて布団に篭ることにしました。

暗くムシムシした布団の中に身を預けると、
悪い汗が流れ続け、幻聴、幻覚に苛まれます。
このまま治らなかったらどうしよう、
もしかして、本当に27クラブの仲間入りをしてしまうのでは…
そんな考えが脳裏をよぎります。

※27クラブとは…ジミヘン、ジャニス、ロバート・ジョンソン等、多くのミュージシャンが27歳で死んでいるんですね。彼らを称して27クラブ。谷口は来月27歳になる上、27クラブには鍵盤奏者がピート・ハムくらいしかいないことから、あちらからお呼びがかかってしまうのでは、と日々恐れている。

駄目だ駄目だ、もっとポジティブにならなくては。
こんな時は音楽を聴いて、気を紛らわそう。
でも、いったい風邪を引いた時って何を聴けばいいのかな?

こんな時にはこれを聴きたいよね、という音楽はいくつかあります。
昼下がりのまったりした時間には、Geoff MuldaurのBrazilを。

ライブ会場への移動中など、気合を入れたい時には、
WilcoのAshes of American Flags、ライブバージョン。

でも風邪の時は?
頭痛に響くといけないので、ビートはあまり効いていないほうがいい。
冗長になり過ぎると飽きが来そうなので、短めのナンバー。
アコースティックなものがいいですね。

ということで選んだのがNick Drake "Pink Moon"。

アコギの弾き語りだし、全編通して2分台の曲が多いし、
これはピッタリのチョイスなのでは!と思って聴き始めましたが…

暗い。

暗すぎです。1曲目は良かったものの3曲目辺りで落ち込んできて、
5曲目を過ぎるころには幻覚が見え始めました。
よく考えてみたらこのアルバムは、
ニック・ドレイクが会話も困難なほど重度のうつ病の時に作られたもの。
そりゃあ暗いに決まってます。しかも碌な死に方をしていない。
27クラブどころか26歳で亡くなっているし、
このまま聴き続けたらなんだか頭がおかしくなってしまいそうです。

ニック・ドレイクは明らかなミスチョイスでした。8曲目で諦めてスイッチをオフ。
同様の理由でジュディ・シルも選択肢から外れてしまいます。
二人とも大好きな歌手なんですが、今は緊急事態。仕方がありません。

次に私が目を向けたのは、ネオアコの世界。
あまり詳しくはないジャンルですが、
ニックドレイクほど余計なことを考えずに済みそうです。
ネオアコといえばイギリスのレーベル、Cherry Red
ギリシャの兄弟デュオ、Fantastic Somethingを選択。

うーん最高ですこのサウンドとハーモニー。
チェリーレッドのコンピでこの人達を知って、
全音源を買い揃えるくらいに一時期はまっていたのですが…

甘ったるい。

ネオアコ特有の甘ったるさが、弱った体にムチを打つようです。
もう、糖分は枕元のポカリスエットだけで充分なんだよ!!
早くもリピート2周目に入った僕のファンタスティック・サムシング・コレクション。
君たちなんでそんなに楽しそうなんだ、僕はこんなに具合が悪いのに。
しかしもう、プレーヤーの電源をオフにする元気は残っていません。
相応しい音楽を探してライブラリと格闘すること2時間。
薄れゆく意識の中で、僕は肝に銘じました。

「風邪を引いてる時には、音楽なんてなんだっていいんだ。というか早く寝なさい」

ようやく目が覚めて、
次の日病院に行くと、いきなり鼻の穴に棒を突っ込まれて
「やっぱ病院って怖いわ」
と思ったんですがインフルエンザの検査だったのですね。
幸いなことにインフルエンザではなく、数日間の投薬で治るそうです。

快気を願って帰りにディスクユニオンで、
ザ・バーズ「ロデオの恋人」未入手だったリマスター盤を600円でゲット。
家に帰って聴いてみるとこいつが何よりもしっくりきました。
やっぱフォークロックって最高。
風邪だろうとなんだろうと、やっぱり音楽っていいもんです。

そんなわけで、快方に向かっております。
今後はしっかり体を鍛えて、27クラブの仲間入りをしないよう気をつけます。
ゆるさの「ゆ」こと谷口雄でした。